心不全

心不全とは

心不全とは心臓の機能低下によって全身に十分な血液を送り出せなくなって肺に水が貯留した状態であり、疾患名ではありません。多くの心臓疾患が進行すると心不全を引き起こすことがあります。心臓以外の疾患などによって生じることもあります。
心臓から送り出される血液が不足すると、心臓は血流を保つために多くの血液をため込んで、左心室上流の肺血管に血液がうっ滞します。動作によって息苦しくなる労作時の息切れを起こし、全身の血管にうっ滞を起こした場合は、下肢にむくみ(浮腫)を起こします。

心不全の原因

心不全を引き起こすのは、心臓機能に原因があるものと、それ以外に大きく分けられます。

心臓機能に原因があって生じる心不全

虚血性心疾患

狭心症や心筋梗塞で冠動脈や心筋に異常が起こる疾患です。

心筋症

心臓の筋肉の異常によって心臓機能が障害していく進行性の疾患です。

心筋炎

心臓の筋肉がウイルスなどに感染して炎症を起こしている状態で、心臓機能が低下します。最近では、コロナウィルスワクチン接種後に心筋炎を呈する症例などがあります。血液の逆流を防ぐ弁の働きが悪くなって、血液を送り出す力が低下する疾患です。

心臓弁膜症

血液の逆流を防ぐ弁の働きが悪くなって、血液を送り出す力が低下する疾患です。高齢者に合併する動脈硬化性変化の一つです。

不整脈

心臓の拍動リズムが異常になり、頻脈や徐脈、不規則な拍動などを起こします。全身に必要な血液を送り出せなくなる場合があります。

不整脈

先天性心疾患

生まれつき心臓の奇形などがあることで、心臓の機能が低下することがあります。

心臓の機能以外に原因がある場合

高血圧や貧血、腎臓病、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、ウイルス感染症、睡眠時無呼吸症候群といった疾患、悪性腫瘍に対する化学療法・放射線療法などの治療、過度のアルコール摂取・薬物中毒・生活習慣の乱れや肥満・加齢・喫煙・過労・ストレスなどによって心不全を起こすことがあります。

心不全の症状

心不全の症状全身に必要な酸素や栄養が足りなくなり、坂道や階段など負荷が大きい動作から息切れや疲れやすい(疲労感・倦怠感)などの症状を起こします。進行すると寝ていても同様の症状を呈し座っていないと呼吸ができない状態(起座呼吸)もあります。また末梢の血管まで血液が行き渡らなくなり、手足の冷えといった症状が比較的早く出現することもあります。
全身への血流も障害されると、腎臓に送り込まれる血液量も減るため尿量も少なくなり、体内の水分が多くなって足の甲やくるぶし、すねのむくみが起こります。また、体重が1週間で数キロ増加することもあります。血液のうっ滞が進行すると、腹部がふくらむ、肺に水が溜まるといった症状があらわれ、低酸素状態になって安静にしていても呼吸困難に陥ることがありますので、緊急性が高い状態と考えられます。
息切れ、手足の冷え、むくみといった自覚症状が最初にあらわれやすいので、こうした症状に気付いたら速やかに当院までご相談ください。

心不全の検査

息切れむくみ、手足の冷え、動悸など、心不全の症状がないかを問診で伺い、聴診、胸部X線検査、心臓超音波検査、心電図、血液検査などを行います。心不全の診断では特に、血液検査が有効です。

BNP検査

BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)は、心臓(特に心室)から分泌されるホルモンの1種で、利尿、血管拡張、交感神経抑制、心肥大抑制などの作用があって、心筋を保護する役割を担っています。BNP前駆体が生成され、その後、生理的に非活性のNT-proBNP(proBNPのN端から76個のアミノ酸)と生理活性を有する成熟型BNP(残りの32個のアミノ酸)に切断されます
心臓への負荷増加や心筋肥大があるとこれらが増加します。そのため、血液中のBNP(NT-proBNP)濃度を調べることで心臓の状態を把握できます。BNP(NT-proBNP)が高値の場合は心不全を疑うことができ、早期に治療介入に繋げられるとされています。
負担が少ない採血検査ですので心疾患の疑いがある場合に加え、動脈硬化高血圧脂質異常症糖尿病・肥満などがある方にも現状の把握に役立ちます。

心不全の治療

基本的に安静、酸素投与、除水のために薬物療法が行われますが、目的は悪化を防ぎ、再入院を予防し最終的に死亡率を下げることが重要です。症状を緩和させてQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上につなげることです。
肺のうっ血症状を改善するために利尿薬が使われることが多く、余分な水分やナトリウムを排出することでむくみや息切れの症状が改善します。再発予防のためには、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、交感神経の緊張を抑制するβ遮断薬、アルドステロン拮抗薬などが使われます。
薬物療法では十分な効果が得られない場合、心不全の原因によって手術などによる追加治療が検討されます。狭心症や心筋梗塞では、カテーテルとバルーンによる拡張とステント留置による虚血の解除、心臓弁膜症の場合には手術によって弁の修復や交換が可能です。

日常生活の注意点

心不全がある場合、日常生活の管理が重要になってきます。下記のポイントをしっかり抑えて、心臓に負担の少ない生活を心がけましょう。

指示通りに薬を服用

体調が改善すると自己判断で服薬を止めてしまうケースがありますが、中断によって心不全が悪化してしまうケースが少なくありません。心臓にとっては、いわばガソリンのような燃料が内服薬の位置づけですので、燃料が枯渇しないように指示された通りに服薬を続けることが重要です。

減塩

過剰な塩分は血液量を増加させて心臓に大きな負担をかけます。1日の食塩摂取量6g未満を心がけましょう。

健康管理

毎日決まった時間に血圧や体重を測りましょう。

禁煙

喫煙は心臓や血管、肺に大きな悪影響を及ぼし、がんの原因になります。必ず禁煙してください。

熱いお風呂、長時間の入浴を避ける

熱いお風呂や長時間の入浴は心臓に負担をかけますので、避けてください。また、冬は脱衣場を温めてから脱衣し、急激な温度変化に注意しましょう。

高齢者の心不全

高齢者の心不全は、心臓が広がりにくい拡張機能不全によって生じ、収縮力は比較的保たれていることが一般的です。拡張機能が低下すると血液が心臓まで戻る力が低下して、うっ血を起こしやすいとされています。
心不全は複数の危険因子と心臓疾患が進行して起こる状態であり、心筋梗塞狭心症といった虚血性心疾患、心臓弁膜症や高血圧の増加によって心不全を起こすケースが増え続けており、今後もこの傾向は続くと予測されています。
高齢になると身体全体の様々な機能が低下しますので、心不全も単なる不調と見逃されて悪化させてしまうこともよくあります。また、高齢になるとはっきりした症状があらわれにくくなり、体調変化をきっかけに一気に症状を進ませてしまうケースも珍しくありません。根治が難しく、塩分や水分の制限がしっかりできない、感染症になる、薬の服用を忘れてしまうなどによって再入院を繰り返し、悪化させてQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を大きく低下させてしまうこともあります。本人だけでなく社会の関わりも再入院予防にとても重要なのでたくさんの目で患者さんを見守ることが不可欠です。

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